アメリカの地質学者と生物学者による「土」の三部作

アメリカの地質学者デイビット・モンゴメリー氏と生物学者のアン・ビクレーによる共著。「土」を切り口に、「土の文明史(Dirt)」、「土と内臓 微生物がつくる世界(The Hidden Half of Nature)」「土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話(Growing a Revolution)」という3部作を記していますが、今回は2016年に初版が発行された「土と内臓 微生物がつくる世界」を読んだ。

 

●土と農業への、引け目と本音

自分は今、慣行農業(農薬や化学肥料を適宜使用)を行っている。

けれど、無農薬栽培や有機栽培に対して、
いつもどこかに引け目を感じている。

 

人間だって、病気になれば薬を飲むし、
日常的にケミカルな食品を口にしているのではないか──。
そう思う反面、いつだって心のどこかに引っかかりがあるのは事実だ。

●マクロビから始まった「無添加生活」

野菜の栽培に興味を持ったきっかけも、
マクロビにはまったことだった。

当時は、調味料から石鹸、シャンプーに至るまで、
無添加にこだわっていた。

 

野菜ももちろん、有機栽培や無農薬のもの以外はありえないと思い、
周囲にもその考えを強く押しつけてしまったこともあった。

 

●慣行農業を選んだ理由

正直なところ、これらへの憧れはあるけれど、
技術的にも、環境的にも、経済的にも「無理」というところに落ち着き、
現状の慣行栽培を選んでいる。

定められた量の農薬や化学肥料なら、人体への影響はないと考えてのことだ。

ネオニコチノイド系の農薬の影響で、
ミツバチがいなくなったという生態系への影響も耳にする。
けれど、一人暮らしの女性が、夜中にゴキ●リに遭遇したとき、
スリッパでバシッと一撃できる人は少ないだろう。

 

ここも、農業に限ったことじゃない。
──そんな言い訳を、私はどこかでしているのだと思う。

 

●矛盾を抱えているからこそ、惹かれるもの

自らのダブルスタンダードゆえに、理論破綻するものに敏感なのか、どうしてもこの手の本に手が伸びる。
人間も土も、現時点では人間が作り出せない。
故に、様々な情報がまことしやかに語られるのだろう。

高齢者向けとなった新聞やテレビCMには、
「これさえ飲めば健康になれる」
「土づくりにはこれ!」
といった文句が並ぶ。
作り方が分からないがゆえの、自由度の高さなのかもしれない。

でも、この本に書かれていることは、そんな眉唾な文句とは全く異なる、興味深い内容だった。

慣行栽培をしておきながら、不耕起農業に興味があるといったら矛盾しているだろうか。

土中にはミミズをはじめとした大小さまざまな生き物が生息していて、
人が手を加えずとも、自然の循環によって芳醇な土壌を生み、支えている。

 

しかし、農業を生業にする以上、安定した出荷が必須だ。
作業性を重視すれば、単一品目を早いサイクルで回していかなければならない。
そんな農法が持続可能なわけがないことも、分かっているのに。

 

●自然に任せる力への興味

この本を読んでから、家の庭から始めてみようと思った。

除草剤は使わず、刈った草をそのまま置き、
精米後に出るぬかをまく。

 

土中の虫や微生物の力を借りることで起こる出来事が、
これから私をどう変えていくのか。
少し楽しみにしている自分がいます。